HOME   »  たまにはシゴトしてます   »  中東の企業分析  »  UAE財閥グループの負債リストラと内部資本市場(3/3)

UAE財閥グループの負債リストラと内部資本市場(3/3)

3. UAE企業の資金融通の特徴

(1)GCC企業とUAE企業の資金調達

 UAE企業の財務内容について分析的な研究は、Obay[2012]やBarakat[2008]など極めて限られている。GCC諸国の上場企業に限定して資本構成の決定要因を分析したObay[2012]は、まずマクロ統計からUAE企業はGCC諸国の中では相対的に銀行借入に頼っていたが、株式市場への依存度は小さいことを示した。観察期間である2000-2009年の時期に、民間部門への銀行貸付(対GDP比)はGCC諸国平均で30%から60%へ拡大しているのに対して、UAEでは45%から90%に拡大していた。株式市場については、対GDP時価総額はGCC全体では2000年の34%から2005年の180%まで増加したが、その後2008年に60%まで減少した。UAE株式市場については、2000年の25%から2005年の160%に増加し、2008年には40%まで減少した。

また、Obay[2012]は上場企業のミクロデータからもGCC企業の資金調達構造について分析を試みている。一般的にUAE企業は他のGCC企業と比較すると、必ずしも企業規模は大きくなく、総資産に占める固定資産も相対的に少ない(表1)。借入による資金調達(特に短期負債)が多い傾向がある。また、これらの負債依存の傾向は、大企業ほど、固定資産が多いほど、そして収益率が低いほど強くなることが報告されている 。

表 1 GCC上場企業の資本構成(平均値、2000-2009年)
0005.png
 
(2)UAE企業グループの構造と内部資金移動

 政府系のドバイ・ワールド・グループは、持株会社ドバイ・ワールド社を頂点とし、海運・ロジスティックス、都市開発、投資・金融サービスに事業を展開するコングロマリットである。傘下に造船所Drydocks World、ドバイのフリーゾーンを統轄するEconomic Zones World、投資会社Istithmar World、そして港湾管理会社DP Worldを有する(図1)。国際的な港湾オペレーターとして台頭しつつあるDP Worldがあげた利益などをドバイ・ワールド社が吸い上げ、グループ関連企業に投資資金として再投資する形でグループは拡大してきた。

図 1 Dubai Worldグループの所有構造

(出所)Dubai World Websiteから筆者作成。

しかし、マクロ環境が悪化し、グループ全体の収益が低下する局面では、グループ内における資金融通が有効に機能するかどうかについて衆目を集めた。ドバイショック直後、ドバイ・ワールド・グループの債務問題は深刻であり、再建の難航が指摘された。2009年11月時点では、ドバイ・ワールド・グループ全体で総額590億ドル債務を抱え、うち260億ドルの債務見直しについて銀行団と交渉開始した。2009年12月にEconomic Zones World傘下のJeber Ali Free Zone Authorityはイスラム債の利子相当支払い4300万ドルを完済するなど自力での債務整理は一部に限られた。

 結果的に、ドバイ・ワールド・グループの債務整理は、アブダビ・ドバイ両政府による金融支援後から軌道に乗り始めた。2009年12月中旬にアブダビ政府は100億ドルの金融支援の発表を行った。200年3月にはドバイ政府からも95億ドルの支援が発表された。それを受けてアブダビ政府からの金融支援のうち41億ドルをNakheelのイスラム債の償還に充当し、2010年5月には期日どおりに全額償還を発表するにいたった。その後、Nakheelは銀行借入21.5億ドルについて期日前に完済することができた(2014年8月)。Nakheelの銀行借入完済について、アブダビ・ドバイ両政府による金融支援が大きな役割を果たしたことはもちろんであるが、近年のドバイの不動産市況が好調で、Nakheelの収益拡大が負債返済に寄与したことも無視できない 。

R0017992.jpg


 傘下企業の負債整理が進み、収益が回復するにつれてグループ内の資金融通が有効に機能し始める。グループ内資金融通が順調に機能することで、傘下企業の収益を内部資本市場を通じてグループ全体に再投資するというシステムが再び機能することになる。ドバイ・ワールド社は、2010年3月に200億ドル超の債務返済案を発表し同年9月には、総額249億ドルの債務再編について債権者の99%と合意するにいたった。冒頭で述べたように現在、負債の返済スケジュールの再交渉中ではあるが、グループ全体の収益の回復とともに返済計画も進展しつつある。
関連記事
Comment
Trackback
Trackback URL
Comment Form
管理者にだけ表示を許可する
FC2カウンター
こんな人が書いてます

じゅん

Author:じゅん
中東経済、企業金融が専門の研究者。UAE・アブダビから帰国しました。
Researcher:Middle Eastern Economy, Financial Development, and Islamic Finance
باحث: الاقتصاد في الشرق الأوسط، التنمية المالية، والتمويل الإسلامي.

■プロフィール詳細はこちら(Curriculum Vitae)
■研究成果の詳細はこちら
■研究プロジェクトの詳細はこちら

最近の記事
カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
2017年7-9月のタスク
①【消費】やりたいことだけやる ②【投資】論文2本執筆 ③【空費】体重を5kg減
カテゴリ
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
政治・経済
260位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
経済分析
23位
アクセスランキングを見る>>
原油価格チェック
Twitterはじめました
RSSフィード
リンク
ブロとも申請フォーム
ブログ内検索
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

最近インプットしたメディア