HOME   »  中東の金融システム
Category | 中東の金融システム

【UAE】アラブ首長国連邦の銀行合併と取締役会におけるビジネス・エリート

1.はじめに


 GCC諸国において、現在、企業の再編が進んでいる。2008年の国際金融危機とその後の原油価格の低迷はGCC諸国の企業活動に大きな影響を及ぼし続けている。特に原油価格下落に伴う各国政府の市場に対する公的資金支出の収縮により、企業は厳しい経営環境と資金調達環境に置かれている。これに対して企業部門は、激化する他企業との競争の中で収益の確保のために経営コストの効率化や事業の整理に取り組んでいる。UAE経済の見通しについては、GCC諸国のなかでも相対的に楽観的な見方も多い。原油価格の低迷や周辺地域の不安定にもかかわらず、UAE市場は相対的に安定した市場とみられており国内外の投資家の関心も依然として高い。また、近年のフィンテック(Fintech)*1 やeコマースに関する技術の飛躍的な拡大、UAE政府の積極的な投資戦略、資本市場へのアクセスの柔軟性の向上は、M&Aを含めたUAE企業を取り巻く投資活動を活発化させている*2 。2016年6月に発表されたアブダビ政府系投資会社の国際石油投資会社(International Petroleum Investment Company;IPIC)とムバダラ開発会社(Mubadala Development Company)の合併計画と、今年3月に発表されたアマゾン(Amazon)によるドバイのeコマース大手サイト・スーク・ドット・コム(Souq.com)の買収計画は、象徴的な事例であった。

金融部門もまた活発化するGCC諸国のM&A活動の渦中にある。2016年12月にカタルのマスラフ・アル・ラヤン(Masraf Al Rayan)、バルワ銀行(Barwa Bank)、カタル国際銀行(International Bank of Qatar)の3銀行が統合に向けて交渉に入ったことを発表した。もし交渉が実現すれば総資産440億ドルのカタル最大のイスラーム銀行が誕生することになる。また、バハレーンのGFH金融グループ(GFH Financial Group)は、2017年5月に明らかにした合併計画になかで、交渉相手にはドバイのシュアア・キャピタル(Shuaa Capital)も含まれることを発表した(2017年3月14日付、Arabian Business)。

これらのGCC諸国の銀行再編の嚆矢となったのが、2016年7月に先駆けて発表されたアブダビ基盤の大手商業銀行であるアブダビ国立銀行(National Bank of Abu Dhabi;以下NBAD)とファースト・ガルフ銀行(First Gulf Bank;以下FGB)の大型合併計画であったと考えられる。UAE銀行市場における大銀行同士の合併案件は、2007年10月にエミレーツ国際銀行(Emirates Bank International;EBI)とドバイ国立銀行(National Bank of Dubai ;NBD)によるエミレーツNBD(Emirates NBD)の誕生以来であり、アブダビ国立銀行とファースト・ガルフ銀行の大型合併は、UAEのみならずGCC諸国の銀行市場に対して大きな影響を及ぼしうる。なぜなら一般に銀行業は、規模経済性と範囲経済性が働く産業であるため、個別の銀行にとって、競合する銀行の急速な規模拡大と市場シェアの獲得は、自身の収益の縮小につながるからである。実際に、今回の大型合併計画が明らかにされると時期を同じくして、UAEでもアブダビ商業銀行(Abu Dhabi Commercial Bank)とユニオン国立銀行(Union National Bank)との合併案やアブダビ・イスラーム銀行(Abu Dhabi Islamic Bank)とアル・ヒラル銀行(Al Hilal Bank)との合併案が相次いで報道された*3 。

UAE銀行部門の大型再編は、同時に銀行の経営陣や取締役会の人員が大幅に刷新される契機となる。特に、UAE銀行の取締役会は、後述するように首長家のメンバーや有力民間ファミリーのメンバーによって占められることが多い。アブダビ国立銀行やファースト・ガルフ銀行といった、アブダビ政府あるいは政府系機関が株式の大半を所有する政府系銀行が、銀行の再編を機に首長家や有力民間ファミリー出身の取締役をどのように異動させたのだろうか。本稿は、アブダビ国立銀行とファースト・ガルフ銀行との合併事例を取り上げ、UAEのビジネス・エリートたる首長家と有力民間ファミリー出身の取締役が、どのように銀行部門に対して影響力を行使しているかについて概観する。具体的には、合併によって誕生した新銀行の取締役の略歴と他企業・機関の兼任状況を公開資料などから調査し、これらの取締役が政府および政府系機関の取締役として深く関与しながら、両銀行の合併作業と新銀行の経営をコントロールしていることを示す。

2. UAEの銀行市場と銀行の取締役
3. ファースト・ガルフ銀行(FGB)とアブダビ国立銀行(NBAD)の合併
4. おわりに


*1 フィンテック(Fintech)とは、ファイナンス(Finance)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語であり、情報通信技術(ICT)を駆使した新たな金融商品・サービスを意味する。
*2 2017年7月12日付、Arab Newsによると、GCC諸国における過去10年間に行われた大型企業合併のうち、バハレーン(20件)とUAE(19件)が最も活発であり、クウェート(12件)、カタル(10件)、オマーン(7件)、サウジアラビア(1件)はそれに続いた。
*3 これら2件の合併計画については、アブダビ・イスラーム銀行とユニオン国立銀行によって否定された(2017年2月26日付、Gulf News および2017年3月9日付、Arabian Business )。

【UAE】2000年代の銀行市場の拡大について整理中

この記事はブロとも、もしくはパスワードを知っている方のみ閲覧できます
パスワード入力
ブロとも申請

【銀行】FGBとNBADの合併の経緯

FGBとNBADの合併の経緯について、いまさらながら整理中。


First Abu Dhabi BankのHPによると、201673日に、FGBNBAD両行の取締役会は、全会一致で株主に対し両銀行の合併案を発表した。この合併案は、127日に両銀行の株主により承認された。


FGBの株主が保有するFGB株式1株につきNBAD株式1.254株を受け取るという株式交換(注1)により実施された対等合併(注2)であった。株式交換により、FGB株主は合併銀行の52%を所有し、NBAD株主は48%を所有することになった。アブダビ政府および関連機関は約37%を所有することになった。


FGB.png



新銀行は、「ファースト・アブダビ銀行(First Abu Dhabi BankFAB)」に変更された。2017330日の取引終了時に、FGB株式はアブダビ証券取引所から上場廃止され、新しいFAB株式は201742日に取引を開始した。




(注1)株式交換(share swap)とは、株式会社がその発行済株式の全部を他の会社に取得させること。
(注2)対等合併(merger of equals)とは、企業の合併比率を11とする合併のこと。


UAE中央銀行発行の月次統計報告(Monthly Statistical Bulletin)の収録データ

2017年4月6日時点で2002年1月から2017年2月までの月次報告書を入手できる。もちろん全ての月次データがアクセス可能というわけではない。以下は、2017年2月版に掲載されているデータ;

1. Selected Monetary and Banking Indicators
2. Monetary Survey
3. Monthly Changes in Factors Affecting Money Supply
4. UAE Monetary Base (Monthly)
5. Central Bank of the UAE Balance Sheet
6. Central Bank International Reserves
7. Aggregated Balance Sheet of Banks - Assets
8. Aggregated Balance Sheet of Banks - Liabilities
9. Aggregated Memoranda Accounts of Banks
10. Banks' Foreign Assets and Liabilities
11. Domestic Credit
12. Bank Credit to Residents by Economic Activity ( Quarterly )
13. Deposits distributed Residents / Non Residents
14. Deposits by Type and Currency
15. Time deposits by Maturity
16. Currency Issued
17. Cleared Cheques Statistics

入手先はこちら

これまでのデータは全てダウンロード済み。


[金融][経済成長]金融機能を組み込んだ内生的成長モデル

奥田[2010]は、金融機能を組み込んだ内生的成長モデルを示した。金融制度が発達した場合、マクロの経済成長率にどのように影響を与えるかを説明した。

内生的な成長率の決定

まず、内生的成長モデルにおいて経済成長率がどのように決まるかを示す。

新しい資本ストックが増加するほど、投資の収益率が高まるような新興市場経済を想定する。このような場合のマクロ生産関数を以下のように設定。とする。

    Yt=F(Kt ,(KtLt))=F(1,Lt)Kt、ただし経済全体の資本ストックKtと労働Lt   ・・・・・・式(1)

(KtLt)は生産性を考慮した労働の投入量。これは、資本蓄積が進むと研究開発や人的投資が向上するため、労働の生産性が高まることを想定。生産関数はKtと(KtLt)に関して1次同次と仮定。

一人当たり生産量yt=Yt/Lt、一人当たり資本ストックkt=Kt/Ltとすると生産関数(1)は以下のように書き換えられる;

    yt=F(1,L)kt=Akt 、A≡F(1,L)   ・・・・・・式(2)

一人当たりの資本ストックkの増加額⊿ktは、

    ⊿kt=syt-γkt=sAkt-γkt   ・・・・・・式(3)

ただし、貯蓄率s、資本の減耗比率γ。資本ストックktの増加率は⊿kt/kt=(sA-γ)であり、一人当たり産出量Akt(経済成長率)も同比率。

金融機能の発展と成長率

ここで、資金の出し手と受け手の間に情報の非対称性が存在すると仮定。投資収益率rt、資本の限界生産性A、情報の非対称性から生じる追加的費用θとすると、資本ストックの増加は、

    ⊿kt=(1-θ)sAkt-γkt    ・・・・・・式(4)

このとき、資本ストックの増加率は、

    ⊿kt/kt=(1-θ)sA-γ

取引費用θを縮小させるためには、金融制度の発展が効果的。

結論:「金融制度が整備されると、取引費用θが低下、資本ストックの増加率⊿kt/ktが上昇、結果的に経済成長率が上昇する」。

証券取引所入り口
<カタル・ドーハの旧市街にあった旧証券取引所。現在はドーハ西エリアのDana Towerに移転 2008年10月筆者撮影>

【参考文献】
奥田英信[2010]「途上国開発と金融の役割」奥田英信・三重野文晴・生島靖久『新版 開発金融論』日本評論社、第1章

銀行の収益性と企業ガバナンスとの相関関係分析

この記事はブロとも、もしくはパスワードを知っている方のみ閲覧できます
パスワード入力
ブロとも申請

金融機関のプロジェクト評価(project evaluation)機能と企業ガバナンス

■金融機関は、投資先の収益とリスクに関する情報生産を行う。的確に情報生産を行うことで、投資先・融資先からより確実に資金を回収し、収益を確保することができる。
■限られた資金(資本金や預金・投資資金)を元に、どのように効率的に収益を上げていくかが金融機関の課題。
■重要な要素が企業ガバナンス。金融機関における統治が欠如すると、経営者が株主利益よりも自己利益を優先するインセンティブを持ちやすいため、金融機関は効率的な資金配分が困難になる。金融機関における資金配分の失敗は、金融機関自体の収益を低下させることにつながり、主要な融資先である国内の企業部門に十分な資金が行き届かなくなる。

UAE金融市場における流動性リスク管理(Liquidity risk management)

■金融機関は、短期で資金運用したい資金提供者と長期資金を必要とする資金需要者との間を仲介する機能を持つ。
■UAE企業にとって、長期資金の確保は困難。
・・・Obay[2012]:UAE企業はGCC諸国の中では相対的に銀行借入に頼り、株式市場への依存度は小さい。UAE企業は企業規模は大きくなく、借入による資金調達(特に短期負債)が多い。また、これらの負債依存の傾向は、大企業ほど、固定資産が多いほど、そして収益率が低いほど強い 。

表:GCC上場企業の資本構成(平均値、2000-2009年)
002_20150531020502528.png
出所:Obay[2012]、Table2,3より筆者作成。

【参考文献】
Obay, L. A. (2014). The Determinants of Capital Structure Choice : Case of G CC Listed Companies. In E. Woertz (Ed.), GCC Financial Markets: the World’s New Money Centers (pp. 111–136). Gerlach Press.

UAE金融市場におけるリスク分散(risk diversification)

■預金者の拡大、金融機関の増加、投資先(企業)の増加によって、投資資金のリスク分散がされる。
■近年、UAE銀行市場はより「競争的」に(Al Muhattam[2010])。

図:GCC預金市場における集中度の推移(1993-2002年)
001_201505310152546bf.png
出所:Al Muharrami[2010]より筆者作成。
注:図の集中度はHerfindahl-Hirschman Indexで計測している。

■拡大する預金・貸出市場;預金・貸出ともに相対的に大きなUAE銀行市場

図:商業銀行の預金残高の推移(% of GDP)
図:商業銀行の貸出残高の推移(% of GDP)
出所: IMF, Financial Access Survey (FAS)より筆者作成
注:同データベースにはバーレーンのデータが掲載されていなかったため、本グラフでは除いた。


【参考文献】
Al Muharrami, S. (2010). Measurement of GCC Market Concentration. In S. Al Muharrami (Ed.), Arab GCC Banking - Measurement of Competition (pp. 33–63). Saarbrücken, Germany: VDM Verlag Dr. Müller Aktiengesellschaft & Co. KG.

金融の未発達と低水準均衡

この記事はブロとも、もしくはパスワードを知っている方のみ閲覧できます
パスワード入力
ブロとも申請
FC2カウンター
こんな人が書いてます

じゅん

Author:じゅん
中東経済、企業金融が専門の研究者。UAE・アブダビから帰国しました。
Researcher:Middle Eastern Economy, Financial Development, and Islamic Finance
باحث: الاقتصاد في الشرق الأوسط، التنمية المالية، والتمويل الإسلامي.

■プロフィール詳細はこちら(Curriculum Vitae)
■研究成果の詳細はこちら
■研究プロジェクトの詳細はこちら

最近の記事
カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
2017年7-9月のタスク
①【消費】やりたいことだけやる ②【投資】論文2本執筆 ③【空費】体重を5kg減
カテゴリ
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
政治・経済
260位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
経済分析
23位
アクセスランキングを見る>>
原油価格チェック
Twitterはじめました
RSSフィード
リンク
ブロとも申請フォーム
ブログ内検索
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

最近インプットしたメディア