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ワクフ(寄進)制度にみるイスラム市場社会

加藤[2006]によれば、

(pp.176)ワクフとは、喜捨(ザカート)に基づく寄進行為である。その法的な定義は、財産から生じる利益を直ちにまたは将来において慈善のために充てることを目的として、その財産の所有権の行使を停止すること(愛宕[1992])。

(pp.178)ワクフ・・・第一は「慈善ワクフ」である。寄進当初から収益がワクフ施設の建設・維持・運営に充てられるよう取り決められた。第二は「家族ワクフ」である。収益の受益者としてワクフ寄進者の家族、子孫、縁故者、友人などが指名されたが、その一部がワクフ施設の建設・維持・運営に充てられるよう取り決められたり、指名された受益者が途切れた後に、収益がワクフ施設の建設・維持・運営に充てられるように取り決められた。

(pp.181)実利的には、ワクフを「家族ワクフ」として設定することによって、イスラム法が定める分割相続規定の運用を逃れ、自分の財産の分割を防ぐとともに、その継続的な管理を自分の一族に委ねることも可能であった。

(pp.185)イスラム共同体にとっては、ワクフからの収益が公共施設の建設・維持・運営という慈善目的のために充てられたため、社会資本が充実するという恩恵を受けた。・・・ワクフ制度は所得と富の再分配と社会資本の形成のためのチャンネルとして機能した。



【参考文献】
加藤博[2006]『イスラム世界の経済史』NTT出版


イスラム世界の経済史 (ネットワークの社会科学シリーズ)イスラム世界の経済史 (ネットワークの社会科学シリーズ)
(2005/07/09)
加藤 博

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イスラム経済の経路依存性

加藤[2006]によると、

(pp.96)イスラム経済は「法あるいは宗教に埋め込まれた経済」。

(pp.97)イスラムの公共理念は、マスラハmaṣlaḥaという概念のなかによく示されている。マスラハは、一般的には利益を意味するが、イスラム法学においては公共の利益を指し、社会福祉と訳される。

(pp.99)個人は、天然資源はもちろんのこと、生産手段としての資本についても所有権を持たない以上、資本に関して発生する利潤について所有権を持たない。かれはただ資本の提供を介して生産に参画したことに対する労働貢献分を報酬として受け取る権利を持つに過ぎない。もうひとつの生産手段である労働を提供した個人もまた、労働を付加することによってのみ天然資源や資本財を使用する権利を許され、この付加した労働に対する報酬として、生産物の一部を受け取るに過ぎない。つまり、経済活動による利益は、付加された労働との関係のみで規定される。

(pp.107)ヒヤルḥiyalが新しい法解釈をともなわないのに対して、イジュティハードijtihādは新しい法解釈をともなう。

【参考文献】
加藤博[2006]『イスラム世界の経済史』NTT出版


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(2005/07/09)
加藤 博

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イスラム経済の初期条件

加藤[2006]でイスラム経済について情報整理中。以下メモ;

(pp.78)商業利益にとって重要なのは、取引費用、とりわけものとひとの移動にともなう輸送コストである。イスラム世界の商業は「規模の経済」を実現したが、その原因として、当時として、当時における輸送コストの安さがあったと思われる。実際、これまでの研究成果をみるかぎり、隊商交易の輸送コストは思いのほか低かった(加藤[2002]c)。

(pp.78)イスラム世界の政治権力が遊牧民の首長たちと個々に結んだヒマーヤḥmāyaと呼ばれる契約。

(pp.92)コンメンダなどの企業組織
・・・(pp.103)コンメンダはイタリア語であって、アラビア語では、ムダーラバ、キラードと呼ばれる。それは、損失は資本の提供者がすべて負担する一方、利益は、約定された割合にしたがって、資本の提供者と労働の提供者とが分配する契約である。その起源は、多くの不確定な危険が待ち伏せている隊商での慣行にあるといわれる。

(pp.93)シンドバッドの主人公は、商人、とりわけタージルと呼ばれ、国際貿易を中心に多角的に経済を営む大商人と、契約の作成など、実践的な知識を与え、商人の活動を支えるとともに、かれらが暴走をしないよう倫理的なたがをはめたウラマー(イスラム法学者)であった。

(pp.94)近世(17,18世紀)のカイロの都市社会を研究したフランスのイスラム史家アンドレ・レイモン(Raymond[1973])は、大商人の家系は続いてもせいぜい三代か四代であると指摘している。


【参考文献】
加藤博[2006]『イスラム世界の経済史』NTT出版


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(2005/07/09)
加藤 博

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小杉泰・長岡慎介[2010]『イスラーム銀行-金融と国際経済』山川出版社

初学者向け・学生向けに最適かと。手短にかつ正確にイスラーム金融の情報を得ることが出来る。

【目次】
1. イスラーム銀行の誕生
2. なぜ、利子はいけないのか
3. イスラームの経済思想
4. 世界に飛躍するイスラーム金融
5. イスラーム金融のつくり方
6. イスラーム金融から世界経済が見える


イスラーム銀行―金融と国際経済 (イスラームを知る)イスラーム銀行―金融と国際経済 (イスラームを知る)
(2010/02)
小杉 泰、長岡 慎介 他

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8.3 イスラーム金融機関の経営

(1)イスラーム金融仲介の基本概念

■一般商業銀行:預金を収集、貸出と投資による運用
■イスラーム金融機関:預金や投資資金など多様な資金を収集し、おもに投資による運用

      (図1)イスラーム金融仲介の概略図
図5


      (表1)イスラーム金融機関の基本的なバランスシート
図6


(2)イスラーム金融機関経営の実際

■GCC諸国のイスラーム金融機関は主に非制限的投資勘定と自己資本から資金調達を行い、ムラーバハを中心に運用。
■ムラーバハを中心に投資先を分散させずに収益が見込まれる金融部門や建設・不動産部門に投資資金を集中
  → 一般商業銀行と比較して高収益。

■しかし、イスラーム金融機関の経営の障害となるのは、その限られた資金調達手段と集中的な投資構造。
■信用リスク分散の面で安全性に問題。

      (図2)イスラーム金融機関の収益率(ROA=純利益/総資産)の地域間比較(2005年)
図1

(出所)CIBAFI[2006]より筆者作成

      (図3)湾岸諸国イスラーム金融機関の資産内容
図2


      (表1)分野別資産構成(対総資産比率、2007年、%)
図4

8.2 GCC諸国におけるイスラーム金融の伸張

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8.1 GCC諸国における金融部門の拡大

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門倉貴史「イスラム金融入門―世界マネーの新潮流」

イスラーム金融の入門書。拡大する「中東の金融」と「イスラーム金融」がごっちゃになっている印象はあるが、よくまとまっている。「イスラーム金融」というより「イスラーム関係諸国の金融事情集」という印象。

イスラム金融入門―世界マネーの新潮流 (幻冬舎新書 か 5-2)イスラム金融入門―世界マネーの新潮流 (幻冬舎新書 か 5-2)
(2008/05)
門倉 貴史

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イスラーム金融については必ずしも記述が多くはないが、各国のイスラーム金融機関・経済事情をかいつまんで説明している。以下、メモ;

・イスラーム金融に関わる「シャリーア委員会」のメンバーの法学者は世界で100人に満たない。さらに英語の知識を持つイスラーム法学者は20人程度
・全世界のイスラム金融資産残高8053億ドル。IRTI&IFSB資料。
・スクーク発行の国別内訳(2006年)・・・IIFM資料
・2004,2005年のエジプトへの直接投資が急増
・サブプライム後もGCC諸国が米国への支援をするのは、自国通貨の維持のため
・2006年、マナーマに「イスラム金融研究センター」を設立
・エジプトのインフラ(鉄道)投資にオイルマネーが流入  

糠谷英輝『中東マネーとイスラム金融』

ここ数ヶ月で爆発的に増えている「イスラム金融」関連の邦語の概説書の一つ。

中東マネーとイスラム金融中東マネーとイスラム金融
(2008/04)
糠谷 英輝

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他の概説書と比較して目新しいことは、、、、。目を通しておかないと。

【イスラム金融入門】1.1 経済制度、規則、契約

最近、書店に目立つようになってきた「イスラム金融」に関する書籍。実際に国際金融の現場で活躍されてきた著者が書かれているものが多く、明快に説明された概説書である。

しかし当然ながら、「イスラム金融」を理解するためには、「イスラム」と「金融」の理解が必要であり、上述の概説書はどちらかと言うと「金融」に重きが置かれていて、基礎のない私にとっては「イスラム」についての記述は分かったような分からないような感じになってしまう。

そこでムスリムにより近い視点から見た「イスラム金融」を読んでおいた方が良いと思い選んでみたのが、

An Introduction to Islamic Finance: Theory And Practice (Wiley Finance)An Introduction to Islamic Finance: Theory And Practice (Wiley Finance)
(2006/11/30)
Zamir Iqbal、Abbas Mirakhor 他

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イスラム金融の理論について書かれたものでは、一番新しいと思います。

以下、少しずつですが読んでまとめたレジュメをアップしてみます。今日は第1章の冒頭部分だけ。


第1章 イントロダクション

・「イスラーム」は経済を含む全ての人間生活に関わる処理原則を表わし、規則を規定。
・イスラーム経済・金融システムと通常の(非イスラームの)システムとの違いとは?
・現代イスラーム金融・経済原則の研究は20年足らず→数々の混乱(知識・一次資料・語学能力の欠如などから)


1.1 経済制度、規則、契約(pp.2)

・イスラームは、創造主Creator、人間、社会間の契約を前提としている
・イスラームのシステム(経済など)を理解するために、イスラームに関する概念的枠組みが必要
・制度institutionには、①規則の存在existenceと、②そのルールを強制enforcementするシステム、が必要

(1)行動規則と社会秩序(pp.3)

・行動規則は、社会秩序の正義を維持するために個人に対して規定される
・行動規則を遵守することで個人は社会に統合される

(2)施行(強制)メカニズム(pp.3)

・具体的には、ムスリムの義務:①各自がムスリムであるための自己研鑽、②決められた規則に従う

(3)契約とイデオロギー(pp.4)

・契約とは、目的に対して時間的拘束のある法律文書→コストがかかるためイデオロギーが重要
イデオロギーとは、個人が世界を理解するための「主観的な」モデル
イデオロギー→個人の選択→経済システムのパフォーマンス


<次回>1.2 イスラームのイデオロギー
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こんな人が書いてます

じゅん

Author:じゅん
中東経済、企業金融が専門の研究者。UAE・アブダビから帰国しました。
Researcher:Middle Eastern Economy, Financial Development, and Islamic Finance
باحث: الاقتصاد في الشرق الأوسط، التنمية المالية، والتمويل الإسلامي.

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